金融界 「ゼロゼロ」出口に挑む(下) 危機克服へ問われる力量

2021.08.10 15:55
事件 法令・制度
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2020年度に全国の信用保証協会が保証を付与した融資の件数は前年度比約3倍の194万件、金額は同約4倍の35兆円。実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資で膨張した貸付債権と、どう向き合うか。危機克服に向け、金融機関の力量が問われる。


懸念されるモラルの崩壊


「逃げられた」――。中国地区の地域銀行支店長は唇をかんだ。広島市最大の歓楽街、薬研堀・流川。複数店を営むゼロゼロ融資先の飲食業者が廃業し、連絡が取れなくなったのだ。


「緊急の要請」に応え、プロパーで1200万円を追加融資した矢先だった。のちに、その経営者が借入金で高級車や他金融機関の金融商品を購入していたことが判明。当の支店長は「やりきれない気持ちになった」と漏らす。


未曽有の経済・金融危機時に発動される100%保証は、金融機関の審査の緩みや、借り手のモラルハザードを招きがちだ。東京商工リサーチの調べでは、廃業を検討する中小企業の比率は6月時点で8・2%まで上昇。金融庁幹部は、「ゼロゼロ融資が廃業準備の余裕を作った側面は否めない」と語る。


企業サイドの意識は二極化が鮮明だ。東海地区では、製造業の回復に伴って「借入金の全額や半額を繰り上げ返済する動きが増えてきた」(信用金庫関係者)。その一方で、北陸地区の信金役員は「一部企業には『返済が厳しくなっても金融機関は簡単に取引をやめないはず』という甘えがみえる」と警戒する。


「建設業」に調達リスクも


ゼロゼロ融資で飲食業やサービス業を中心に取引先が大幅に増え、今後は融資先の管理が課題となる。東海地区の信金幹部は「月1回は電話か訪問で全融資先と接触するよう指示しているが、(現場で)徹底できているかまでは把握できていない」と明かす。


ゼロゼロ融資の返済猶予は最長5年だが、「長めにすると金融機関の審査が厳しくなる」こともあり、約1年に設定した企業が多い。東京都よろず支援拠点の弥冨尚志サブチーフコーディネーターは「足元では据え置き期間の延長に応じる金融機関が目立ち、地方公共団体の融資制度を利用して借り換える動きもある」と話す。四国地区の金融関係者は「(過剰債務の)影響が表面化するのは23年ごろだろう」と予測する。


ただ、業種によっては今夏にも運転資金に窮する企業が出てきそうだ。その一つが建設業。公共工事は8月に動き始める案件が多い。9月以降は手元資金が極端に減っていくが、取引金融機関がプロパー融資に応じてくれるかは不透明だ。


引き当てや伴走人材課題


資金繰り支援の次に求められるのが資本性資金。きらぼし銀行は、集団感染が発生して看護師の退職者が増えた病院に劣後ローンを提供するなど、「地域医療を支える」(渡邊壽信頭取)取り組みを強化している。愛知県東三河地区の3信金(豊橋・豊川・蒲郡)は、6月に共同で資本性融資の取り扱いを始めた。単独では難しい案件で協調する。


倒産増加に備えた引当金の積み増しも喫緊の課題だ。地域銀では「(飲食業など)コロナ業種をグルーピング」(関東地区地銀)するなど、21年3月期に動きが活発化した。一方、信金や信用組合は「監査法人の承認を得られなかった」ところも多く、22年3月期に本番を迎える。


企業と一緒に険しい道のりを伴走できる人材の確保も重要となる。横浜信用金庫は、4月に融資部で本業支援の力を養う短期(1カ月)と長期(半年)の研修を始めた。「コロナ後を見据え、職員の質を均一化する」(野田淳嗣理事)狙いがある。


コロナ禍は、企業の資金需要を一時的に大きくゆがめた。今後、危機の出口を探る過程で事業者といかに信頼関係を深められるかが、危機を脱した後の金融機関経営を大きく左右することになりそうだ。

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この記事のより詳しい情報はニッキン本誌(紙版)2021年3月24日(金)発行3面に掲載されています。

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