第1回 いま経営者が悩んでいる〝人〟の問題
2023.04.06 13:23
企業、特に人材を取り巻く大きなうねりが起きています。「人材の管理はコスト」というこれまでの認識から、「人材は資産」という認識への大きな変化です。その代表的なキーワードがつまり「人的資本経営」になります。
一方で、多くの企業、経営者が「具体的に何をやるのか、イメージできていない」「一部の大企業や上場企業だけの問題で、自分たちの企業には、関係がないのではないか。どうやって、わが社に取り入れればよいのか」といった悩みを抱えています。
ただ「人材」を活かして組織のパフォーマンスを最大化させる必要性は、上場企業や一部の大企業に限らず全ての企業に必要になるでしょう。
そこで今回の連載では、
①いま経営者が悩んでいる事
②人的資本経営で実現できる事とは?
③人的資本経営の実現を下支えする、タレントマネジメントシステム
の全3回にわたり解説します。
第1回は、いままさに経営者が悩んでいる人的資本経営について、その勘所をお伝えします。
1. みえない資本の力が結果を生み出す
VUCA、あるいはWithコロナ時代に起因する、企業を取り巻く外側と内側の変化からこれまでビジネスモデル・組織運営モデルからの脱却が必要であるとの認識が増大しています。
そんな中、企業の中長期的な競争力の源泉が、設備ではなく、人財、技術、ブランド等の無形資産になってきています。
「企業を取り巻く内外の変化」

とりわけ人的資本への投資は中核的要素とみなされており、中長期的な企業価値の向上には「人的資本への投資が不可欠」との共通認識が徐々に広がってきています。
そして財務的な資本は使えば使うほど(投資すれば、投資するほど)減っていくものですが、人的資本は使えば使うほど増加していくものなのです。
つまり「一部の大企業や上場企業だけに関係があるテーマ」ではなく、今後あらゆる企業にとって必要な考え方になってきます。
2. 人的資本経営には2つの面がある
人的資本経営とは、「人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と経済産業省のホームページ『人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~』に記載されています。
では具体的には、どのような取り組みが必要でしょうか?
人的資本経営の取り組みには、“攻め”と“守り”の2つの側面があると考えています。
まずは“守り”について。こちらはISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)に代表されるように、人的資本に関して、今の会社の現状をデータに基づいて明らかにしていく取り組みです。
どのような情報を開示していく必要があるのかは目下政府が議論・検討しているところですが、指針としては、①育成 ②エンゲージメント ③流動性 ④ダイバーシティ ⑤健康・安全 ⑥労働慣行 ⑦コンプライアンス/倫理-の7つの観点で開示する必要があります。
次に“攻め”についてです。こちらは、経済産業省の検討会で発表した『人材版伊藤レポート2.0』を中心とした、企業のビジョン・戦略を実現するための取り組みです。
明確なビジョンや経営戦略、そしてそれに基づいた人材戦略や人材ポートフォリオ、組織にイノベーションを起こせる人材のスキルや能力をしっかりと定義ができていること。そして、定義に対して現状の社内人材でのギャップがきちんと認識できていることがポイントになります。
この2つの面に焦点を当てながら、人材の活用と価値の向上を図っていく必要があるのです。
加えて、人的資本経営を実現することは、企業の競争力を高めるだけでなく、社員にとっても自らのキャリアや能力開発となり、結果エンゲージメントの向上につながっていきます。
次回は、企業の側面だけではなく社員の側面も加えて、人的資本経営で実現できることについてお話しします。